summerkid’s blog

日本のどこか懐かしい「夏」を描いた本を紹介していきます。

夏の本④ 幻夏

『 幻夏 』(太田愛角川書店)は完全なミステリー小説である。

ミステリー小説にそんなどこか懐かしい青春の夏の要素なんてあるの?って思う人がいるかもしれない。ちゃんとあります。


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このミステリーは20年以上前の夏に多摩丘陵の、京王よみうりランドなどがある近くの地域でとある夏に1人の小学生の少年が行方不明になった事件を起点として展開していく。

その20年以上前の少年達の夏の描写が秀逸なのだ。神社の境内前の階段をスロープを使って遡ったり、小銭を握りしめて買い物をしたり、秘密基地で遊んだり、ザリガニ釣りをしたり…。僕達が忘れていた、どこかに置いてきた思い出がそこにはあった。 

ドラマ『相棒』などの脚本を手掛けた筆者ならではの緻密な描写はとても美しい。

 

そしてそのような20年以上前の少年達の夏が丁寧に説明されていたからこそ、少年が行方不明になってそれらの夏が消えてしまった悔しさが読者の胸に残り続ける。

この少年の失踪と他の刑事事件を結びつけて調査するのが左遷された警察の相馬、そして鑓水、修司である。

この作品には前作として『犯罪者』という本があるけどもちろん読まなくても楽しめる。

ただ単なる夏の本ではなく、冤罪事件など国と司法のあり方などについても考えさせられる非常に深い本である。

 

夏☆☆☆☆☆

ためになる☆☆☆☆☆

ミステリー☆☆☆☆