summerkid’s blog

日本のどこか懐かしい「夏」を描いた本を紹介していきます。

夏の本① 夏へのトンネル、さよならの出口

 1冊目はこの本。

 

『夏へのトンネル、さよならの出口 』(八木迷、ガガガ文庫小学館)

 

8月の頭、私は岐阜県の飛騨高山、そして白川郷を訪れた。金欠大学生としての誇りを胸に、もちろん使ったのは青春18きっぷ。その道中に読んだのがこの本だ。


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(書影は著作権とかに引っかかったら嫌なのでイメージです)

 

 電車の中で読む本を探しに書店を訪れた時に、表紙のイラストとタイトルに惹かれて即購入してしまった。

 

 行きの電車で半分くらい読んで、帰りの電車でもう半分読むつもりだった。けど行きの電車で全部読み切ってしまった。そのくらい面白かった。

 

  欲しいものがなんでも手に入る代わりに歳をとってしまうというウラシマトンネル。そんな都市伝説を耳にした主人公の高校生カオルは偶然にもそれらしきトンネルを見つける。亡くなった妹を取り戻すために、1人でトンネルの調査を行うカオル。しかしちょっとした出来事をキッカケに転校生の美少女あんずと手を組んで調査することになる。

 

まず舞台設定がしっかりとしている。私が求める理想の田舎像がしっかりと詰め込まれていた。

―正面には海。振り返れば山。単線の線路に片面のホーム。県内有数の秘境駅として知られる僕の通学駅には、こういうことがわりとよくある。― 

 この物語の始まりにある主人公の最寄り駅の描写である。この駅の魅力を補強するかのように最初の2ページに渡って『 夏』のこの駅の描写が続く。雰囲気作りは充分。私の意識は一気に海と山に挟まれた青春の世界に飛び込んだ。

 ウラシマトンネルを探す主人公が線路の上を歩くというのもたまらない。夏の線路の上!スタンド・バイ・ミーを彷彿とさせる。 

 そして上で分かるようにこの物語はSFでもある。そのSFの世界観を利用しながら、極上の疾走感溢れる後半を巧みに演出しているのだ。ネタバレになるから書けないけど。

 

 このようにこの物語は、高校生による青春SFストーリーである。登場人物の家庭環境は複雑で全体的に重苦しい空気がこの作品を覆っている。だが、そのような空気の中でも一夏の青春の輝きは衰える事なく放たれている。最初の数ページを読めば一気にその輝きの中に飛び込める。

 

夏ポイント ☆☆☆☆

田舎ポイント ☆☆☆☆

青春ポイント☆☆☆☆☆