summerkid’s blog

日本のどこか懐かしい「夏」を描いた本を紹介していきます。

夏の本⑤ 夏の庭

 ④から少し間が空いてしまった。誰もこのブログを見ていないのに更新し続ける私のメンタル強い。

5冊目はこれ。

『夏の庭』(湯本香樹実 新潮文庫 )f:id:summerkid:20190925224501j:image

私が紹介する間でもなく、至る所で目にする本だと思う。『夏』と言えばこの本だ。だからあらすじは省略します。

高校生の夏。私は期待を胸にこの本を手に取り読んだ。

読み終わった。面白い、だが私が求めていたものとは少し違う…。そう、田舎要素が足りない!山、海、田んぼ、畑!我々日本人に流れるノスタルジーの欠片がこの作品には不足していた。

だが、その田舎要素不足を抜きにすれば、この作品は小学生の懐かしい夏の一時に浸れる素晴らしい作品である。

純粋な小学生が抱いた「死」に対する好奇心から始まるこの物語。カンがよくない者でも結末は分かるだろう。その結末をこの物語の小学生達はどう迎え、大人に近づくのか。

結末に至るまでの子供である主人公達と大人であるおじいさんの「夏の庭」での交流も見事である。

この記事を書いている最中、映画『夏の庭』を見たくなった。TSUTAYAに行ってきます。

 

夏☆☆☆☆☆

田舎☆

青春☆☆☆☆

 

夏の本④ 幻夏

『 幻夏 』(太田愛角川書店)は完全なミステリー小説である。

ミステリー小説にそんなどこか懐かしい青春の夏の要素なんてあるの?って思う人がいるかもしれない。ちゃんとあります。


f:id:summerkid:20190919001010j:image

このミステリーは20年以上前の夏に多摩丘陵の、京王よみうりランドなどがある近くの地域でとある夏に1人の小学生の少年が行方不明になった事件を起点として展開していく。

その20年以上前の少年達の夏の描写が秀逸なのだ。神社の境内前の階段をスロープを使って遡ったり、小銭を握りしめて買い物をしたり、秘密基地で遊んだり、ザリガニ釣りをしたり…。僕達が忘れていた、どこかに置いてきた思い出がそこにはあった。 

ドラマ『相棒』などの脚本を手掛けた筆者ならではの緻密な描写はとても美しい。

 

そしてそのような20年以上前の少年達の夏が丁寧に説明されていたからこそ、少年が行方不明になってそれらの夏が消えてしまった悔しさが読者の胸に残り続ける。

この少年の失踪と他の刑事事件を結びつけて調査するのが左遷された警察の相馬、そして鑓水、修司である。

この作品には前作として『犯罪者』という本があるけどもちろん読まなくても楽しめる。

ただ単なる夏の本ではなく、冤罪事件など国と司法のあり方などについても考えさせられる非常に深い本である。

 

夏☆☆☆☆☆

ためになる☆☆☆☆☆

ミステリー☆☆☆☆

 

夏の本③ 太陽のあくび

今回の表紙はなんとカラー。
f:id:summerkid:20190916230555j:image

『 太陽のあくび 』 有間カオル メディアワークス文庫

この物語の題材は愛媛県の小さな村の農家が開発したミカンである。そしてそのミカンを売り出そうとする愛媛の高校生、そして東京にあるテレビ通販番組のバイヤーを中心に話は進む。

この農家×テレビという掛け合わせが面白い。このようにこの作品内では自然とIT、地方と都会などといった対立するものの掛け合わせが非常に多く見られた。この掛け合わせによる相乗効果によって、2つの魅力がより強く伝わると感じた。

また、普段の生活においてテレビ通販番組のバイヤーなどという職業について興味を持つことはあるか。私はない。日頃知ることのない、貴重な裏話もこの作品にはたくさん詰まっていた。

この作品の主人公らは愛媛の高校生。もちろん青春も描かれる。ミカンの売り出しと共に進む恋愛模様はミカンと同様に少しだけ私には酸っぱかった。田舎の高校生の恋愛…いいなあ。

 

田舎度☆☆☆

夏度☆☆

青春度☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

夏の本② 夏の滴

『 夏の滴』桐生祐狩 角川ホラー文庫

 

美しいタイトル。この『 夏の滴』という3文字だけで青春の瑞々しさが頭の中に浮かんでくる。

f:id:summerkid:20190916001933j:image
↑私が書いた美しい表紙イラストです。

だが違う。この作品は第八回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞している。

この作品は小学四年生の主人公と彼の友達を中心に描かれる一夏の物語である。作品の舞台は田んぼがら多くある、N県の県庁所在地が近い町。主人公らは、転校してしまった友達に会いに小学生だけで東京に行ったり、クラスでは植物占いが流行ったり、夏休みの親子キャンプに行ったり小学生らしいイベントをたくさんしている。

このような楽しいイベントの中で見えてくるのは小学生と大人達のドロドロとした醜い本性。

親子愛、友情。美しく見えるそれらは実際に美しいのかと考えさせられた。

私はホラー小説というのはグロにばかり頼って描かれるものだと思っていたが違う。人間関係ほど恐ろしいものはないのではとこの本を読んで考えさせられた。もちろんこの本にもグロ描写はあるが。

青春物語の中の青春と自分の青春を比較して、鬱になった人にオススメです。

夏ポイント☆☆☆☆☆

田舎ポイント☆☆

青春ポイント ☆

夏の本① 夏へのトンネル、さよならの出口

 1冊目はこの本。

 

『夏へのトンネル、さよならの出口 』(八木迷、ガガガ文庫小学館)

 

8月の頭、私は岐阜県の飛騨高山、そして白川郷を訪れた。金欠大学生としての誇りを胸に、もちろん使ったのは青春18きっぷ。その道中に読んだのがこの本だ。


f:id:summerkid:20190914204415j:image
(書影は著作権とかに引っかかったら嫌なのでイメージです)

 

 電車の中で読む本を探しに書店を訪れた時に、表紙のイラストとタイトルに惹かれて即購入してしまった。

 

 行きの電車で半分くらい読んで、帰りの電車でもう半分読むつもりだった。けど行きの電車で全部読み切ってしまった。そのくらい面白かった。

 

  欲しいものがなんでも手に入る代わりに歳をとってしまうというウラシマトンネル。そんな都市伝説を耳にした主人公の高校生カオルは偶然にもそれらしきトンネルを見つける。亡くなった妹を取り戻すために、1人でトンネルの調査を行うカオル。しかしちょっとした出来事をキッカケに転校生の美少女あんずと手を組んで調査することになる。

 

まず舞台設定がしっかりとしている。私が求める理想の田舎像がしっかりと詰め込まれていた。

―正面には海。振り返れば山。単線の線路に片面のホーム。県内有数の秘境駅として知られる僕の通学駅には、こういうことがわりとよくある。― 

 この物語の始まりにある主人公の最寄り駅の描写である。この駅の魅力を補強するかのように最初の2ページに渡って『 夏』のこの駅の描写が続く。雰囲気作りは充分。私の意識は一気に海と山に挟まれた青春の世界に飛び込んだ。

 ウラシマトンネルを探す主人公が線路の上を歩くというのもたまらない。夏の線路の上!スタンド・バイ・ミーを彷彿とさせる。 

 そして上で分かるようにこの物語はSFでもある。そのSFの世界観を利用しながら、極上の疾走感溢れる後半を巧みに演出しているのだ。ネタバレになるから書けないけど。

 

 このようにこの物語は、高校生による青春SFストーリーである。登場人物の家庭環境は複雑で全体的に重苦しい空気がこの作品を覆っている。だが、そのような空気の中でも一夏の青春の輝きは衰える事なく放たれている。最初の数ページを読めば一気にその輝きの中に飛び込める。

 

夏ポイント ☆☆☆☆

田舎ポイント ☆☆☆☆

青春ポイント☆☆☆☆☆

 

 

 

このブログをなぜ開設したか

 高校に入学した辺りからだろうか。私は日本の田舎の風景、特に夏の田舎の風景に強く惹かれるようになった。どこか懐かしい、夏の緑や青に光り輝く山や川、田園風景を見て感じたかった。

 

 その理由は自分でも分からない。本当にいつの間にかそのような景色を好きになっていたのだ。

 

 今でこそ私は関東平野のド真ん中に住むしてぃーぼーいだが、幼い頃私は四国の山の方に住んでいた。その頃は自分の住む田舎が嫌いだったくせに、高校生になりその田舎が恋しくてたまらなくなった。

 

 高校生だった私はとりあえず自分の足で日本の田舎に行ってみたかった。

 

しかしバイト禁止の自称進学校に通っていた私はそんな遠くに行くようなお金はなかった。関東平野の真ん中から山間部まで、当時の私には遠すぎた。

 

 そんな私が辿り着いたのが「本」である。それまで私は表紙にアニメ調のイラストが描かれたライトノベルばかり読み漁っていた。しかし私は変わった。「夏」の「田舎」を舞台とした本を読むようになったのだ。本の中の田舎の世界は美しかった。私は何回も美しい田舎の中で青春を送った。今でもたまにはラノベも読みますけどね!

 

  このようにして高校生の頃から、たくさんの「夏」の本を読んできた。最近になり、私も自分が読んだ本を把握しきれなくなってきた。

 

 そんな訳でこのブログには読書記録も兼ねて、私が読んだ「夏」の本を紹介していきたいと思う。